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イベントレポート

上場後の持続成長を目指すための心構え

2018年12月6日に東京証券取引所 東証ホールにおいて新興市場を中心とした上場企業の経営層や上場を目指す未上場企業を対象としたセミナー「上場後の持続成長を目指すための心構え」を開催いたしました。
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上場を契機として更なる成長を目指す多くの企業家の皆様にご参加頂く中、CFOとして投資家とのコミュニケーションをとり続けてきた中外製薬の板谷顧問や上場直後の企業をPost-IPO企業と位置付けて成長支援を行うシニフィアンの朝倉代表をゲストスピーカーに迎えて、貴重なノウハウや知見について講演をして頂きました。

また、パネルディスカッションにおいては、講演のお二人に加えて、マザーズ上場後に着実な成長を果たし東証一部へ市場変更した鎌倉新書の清水会長、フィンテックサービスを展開し上場を目指すベンチャー企業のTORANOTECの藤井取締役、ベンチャー支援をライフワークにされている早稲田大学の松田名誉教授といった多様なスピーカーにご登壇頂き、上場後の持続成長には何が必要なのかについて意見を交換させていただきました。

上記 ご登壇者の方々の貴重なご意見をあわせまして、大変盛況となりました今回のセミナーの模様をレポートいたします。

特別講演
「上場会社のサステナビリティ経営におけるコミュニケーション戦略について」
中外製薬株式会社 顧問(元取締役上席執行役員 CFO)板谷 嘉夫 氏

中外製薬株式会社 板谷顧問に、CFOとしての経験から投資家とのコミュニケーションの実情と対策について、ご講演いただきました。

中外製薬株式会社 顧問(元取締役上席執行役員 CFO)板谷 嘉夫 氏

中外製薬株式会社 顧問(元取締役上席執行役員 CFO)板谷 嘉夫 氏

投資家から尊敬される会社とならなければならない

本業の業績を向上させることは大前提であるが、それだけでは生き残りが難しい時代。社会から距離をおいては生き残れない。外部のステークホルダーからの期待に応えて、対話していくことで、投資家に中長期的に株を保有してもらうことは企業の安定経営には重要になる。企業は、あるべき企業像を追い求め、社会から必要とされる存在として、投資家コミュニティで尊敬される会社でなければならない。

常に変化する社会の期待に応えることが重要

「ESG」、「ダイバーシティ」、「インクルージョン」等の取り組みについては、国内投資家、海外投資家問わずよく聞かれる。一方で、それらの社会における比重は常に変化をしているので、世の中の変化にアンテナを張っておく必要がある。「SDGs」のような国連で採択されたものを投資家は一民間企業に聞いてくる。反ESG、反SDGsでは生き残れないので、自社の取り組みの中でベクトルが一致しているものを整理して、この点では社会に貢献していると応えることが求められている。

自社の強みや社会における価値を徹底的に分析する

ステークホルダーごとに求めるものは変わってくる。IR活動では、「現在」という企業業績に加えて、「将来」の企業価値をいかに伝えられるかが実りあるIR活動かどうかの分かれ目になる。自社の強み、弱みを知り、社会における価値をまずは徹底的に分析した方が良い。事業経営していれば自然にできるというものではない。時間と労力が必要となるので、意識的に取り組む必要がある。アニュアルレポートは、有価証券報告書と異なり、表現の自由があるので、本当に伝えたい企業価値を伝えられる強力なツールになるので作成をお勧めする。
どう伝えるかの1つとして、個別の投資家に言ったことは共有しないと不平等になるので、公平に伝えることが重要になる。また、海外の機関投資家は中長期の投資をするところが多い。中長期のホルダーを捕まえることは安定経営につながるのでお勧めする。

基調講演
「日本のスタートアップエコシステム確立にむけて」
シニフィアン株式会社 共同代表 朝倉 祐介 氏

シニフィアン株式会社 朝倉代表に、スタートアップ企業の成長戦略と、Post-IPO企業の持続成長モデルについて、ご講演をいただきました。

シニフィアン株式会社 共同代表 朝倉 祐介 氏

シニフィアン株式会社 共同代表 朝倉 祐介 氏

スタートアップは社会・産業を牽引するプレイヤー

国内の未上場企業の資金調達額は、2017年に約2,700億円と急激に成長している。また上場する企業も非常に増えてきており、市場全体が活性化している。スタートアップ企業の意義とは、新産業の創出にある。様々な社会課題を解決しながら、未来の産業界を牽引していくことが役割と捉えている。実際に、アメリカでは1979年以降に創業した上場会社のうちベンチャー投資を受けたスタートアップ企業は、社数では43%、時価総額では57%、R&D投資では82%を占める。買収されたスタートアップの影響も考えると世の中に大きな影響を与えていることがわかる。

日本における新産業創出には入口と出口に課題がある

入口は、スタートアップに挑戦する人の絶対数が圧倒的に欠けているという点。開業率の国際比較では、先進国中で日本は最下位。起業への関心や評価が極めて低い。ポイントは、起業のハードルをいかに下げるか。社会を変えるような大それたものではなく、「志の低い起業」で挑戦する人の数を増やしていきたい。起業家が増えることで、起業家が生まれやすい空気感が醸成される。
出口の課題は、そのような挑戦がしっかりと報われるということ。アメリカでのスタートアップのイグジットは、約9割がM&Aによるもの。日本ではネガティブに受け止められている側面があるが、産業を作るという視点からはIPOだけでなく、M&Aという出口があることも層を厚くすることにつながる。

上場後の中長期成長に必要な自社の力量を見定める

日本の特徴として極めて小さい規模で上場できる。2015~2017年の東証マザーズIPO企業の初値ベース時価総額が平均100億円。アメリカではミドルステージ程度の水準。マザーズがレイターステージのVCを代替する役割を担っていることがわかる。
上場したとはいえ、まだまだ未成熟なこの段階(Post-IPOスタートアップ)の課題は、ペイシェントリスクマネーと適切な経営知見を提供するプレイヤーが皆無であること。VCは上場するとイグジットしてしまい、機関投資家の投資対象にもならない。個人投資家が中心で日々の売買の対象になりがちで、数値を短期間で向上することを求められてしまう。自分たちのバリューを常にフェアな目で算定し続けていかなければならないし、事前に中期的成長に必要な資本力や資金力、経営チームの力量を見定めて、上場後を見据えた組織・制度設計をしていくことが重要になる。

総括パネルディスカッション
「上場後に真の持続成長を目指すための心構えとは」

国内未上場企業の資金調達額、並びに新規上場社数は増加傾向にある一方で、多くのスタートアップは上場後、事業の複線化、組織の急拡大や、資本市場との対話など成長に伴う様々な課題に直面しています。上場後の企業が直面する特有の経営課題を明らかにし、その解決の方向性について、本セミナーの登壇者にご意見をいただき、参加いただく聴衆の皆様と一緒に考える場とさせていただきました。

パネリストには基調講演の登壇者に加えて、株式会社鎌倉新書 清水会長、TORANOTEC株式会社 藤井取締役、早稲田大学 松田名誉教授を迎え、モデレーターには株式会社ICMG 船橋社長に努めて頂きました。

株式会社鎌倉新書 代表取締役会長 清水 祐孝 氏

自社を出版社から“情報加工事業者”に再定義し、インターネットメディア事業へ展開

マザーズに上場し、1年半後に東証1部に市場変更した。元々は、仏教本の出版社であったが、現在は、2兆円規模といわれる終活マーケットにおいて、ユーザーの持つ情報の非対称性や事業者のユーザー獲得コストなど業界の課題に対して、インターネットを使って、ユーザーと事業者を結び付けるサービスへと事業を転換している。出版会社と異なり、在庫や倉庫を持たないビジネスでは、人が重要になってくるため、優秀な人材を集めるために上場に至った。

成長のフェーズごとに経営に必要な要素が変化

上場直後から意識してきたのは、会社は成長フェーズで経営に必要な要素が変わっていくということ。自分ができないことをやろうと考えるよりも、できる人と作っていく方が良いと考えて、東証一部に市場変更後に、外部から社長を招聘した。成長のフェーズで様々な視点やノウハウが必要となるので、同じ人間が同じやり方でやっていては、どこかで成長が止まってしまう。

TORANOTEC株式会社 藤井 亮助 氏

TORANOTEC株式会社 藤井 亮助 氏

先進国の中で最も小さな単位から投資ができる仕組みを構築

2016年8月に設立し、昨年「トラノコ」という投資サービスを立ち上げた。買い物データを集積し、「おつり相当額」を算出することで、日々の暮らしの生活と一緒に無理のない投資サービスを実現している。1,800兆と言われる個人資産の52%は現預金で固定されてしまっている。ハードルを下げることで、一人でも多く市場活性に参加をしやすい仕組みとして作り上げている。

日本発のフィンテックサービスとしてアジアへの進出を狙う

日本スタートのフィンテック企業としてアジアへ進出していきたい。サービスモデルとしては、日本で成功しているというのがブランドとしても効くので、中国などに負けないように頑張っていきたい。経営陣はある程度揃ってきているので、開発陣の充実がこれからの経営課題となっている。

早稲田大学 名誉教授・商学博士/証券リサーチセンター 代表理事松田 修一 氏

早稲田大学 名誉教授・商学博士/証券リサーチセンター 代表理事松田 修一 氏

第4次産業革命において、新しいことに切り込んでいく 会社だけが生き残っていく

TOPIX500のうち4割以上がPBR 1を割っている。アメリカなどでは、統廃合によって代謝が行われている。日本でも企業の流動性を高めていくことで世の中が変わっていくのではないかと考えている。
第4次産業革命で、産業構造は次々に転換されているが、日本の業種体系は上場制度が始まってから変わってない。これでは業界が大きく再編されていく中で乗り切れない。

世界に貢献できるビジネスモデルを持った会社を目指して欲しい

日本の「モノづくり」は、製造中心のバリューチェーンであったが、それが崩れつつある。今後は、「コト作り」になる。それは消費者や市場に対する利便性だと思う。今起きていることが、20年後にどうなっているのかを予測しながら、持続的に考えていく必要がある。
研究開発型ベンチャーはスモールユニットでいいので、メガプラットフォーマーがいくら頑張っても活用せざるを得ないような、プラットフォーマーとなるべき。日本発のビジネスモデルを世界に輸出して、世界に貢献できるというのが、持続的成長できる会社ではないかと思っている。

中外製薬株式会社 板谷 嘉夫 氏

日常の問題の中にも新たな分野を切り開く鍵がある

持続的成長には、新しいことに取り組んでいくことが必要。そのヒントは、日常の中やビジネスの会話の中にあったりする。製薬会社としてどこかで避けられないテーマに安楽死の問題がある。それを認めている国もあるが、日本では議論する環境がない。新しいことを模索していく中で、例えばタブーとされているようなことにも切り込んでいき取り組んでいって欲しい。

自己変革を続ける柔軟さや市場とのコミュニケーションがポイント

シニフィアン株式会社 朝倉 祐介 氏

1つは、経営者が外の意見に対してどれだけオープンになれるか。一部自己否定になるような部分もあったとしても、自己変革を行える柔軟性を持てるかどうかが重要。もう1点は、市場に対するアピール。表面的に見える課題は千差万別だが、傾向は共通している。自分たちのことを魅力的に話すことができていない。等身大の姿で良いので、市場と上手くコミュニケーションし、自分たちの会社をいかに知ってもらうかを考えて欲しい。

パネルディスカッション終了後には、参加者や登壇者を交えた懇親会が催され、持続成長を実践するために企業、経営者がどうあるべきかについて活発な意見交換がなされ、参加された多くの上場企業の経営者間において、親睦を深めて頂きました。

アンケート結果

アンケート結果

 

参加者からの声(アンケートより一部抜粋)

  • 朝倉氏の明解、明晰な論点極めて説得力あった。
  • 講演者の方の幅広い知見の一端をお聞きでき、大変勉強になりました。
  • 実際にIRをご担当された方のご経験を伺え参考になりました。
  • 新しい発見の多いセミナーでした。
  • IPO前後の成長企業から経営人材のニーズを頂くことが多いが伸び悩んでいる企業も多いので気になっているテーマであった。非常に参考になりました。
  • 清水氏の率直なケーススタディ的なご説明も非常に好感が持てました。
  • とても勉強になりました。今後のIR活動で利用していけそうです。
  • 業界の課題、業界環境の変化によりどのような価値が求められるかを教わるきっかけを頂けました。
  • パネルディスカッションはもう少しかけあいがあるとより面白かった。

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